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【コラム】お惣菜という仕事について、いま思うこと

料理人の仕事というと、「レストランで腕を振るう人」

そんなイメージを持つ方が多いかもしれません。

けれど実際には、料理人の仕事やキャリアは、もう少し幅のある世界です。

レストランだけでなく、お弁当屋さん、給食、高齢者向け介護施設、

料理研究家、コンサル、工場やデパ地下のお惣菜など、

料理が必要とされる現場はさまざまにあります。

私はこれまで、外食、中食、移動販売、と3領域のの異なる現場で料理の仕事に関わってきました。その中で感じてきたこと、そして、いま「お惣菜」という仕事を選んでいる理由を、

できるだけわかりやすく書いてみようと思います。

 

料理人のゴールは、ひとつしかないと思っていた

私が料理の世界に入ったのは18歳で今から37年ほど前、

料理人のキャリアはとてもシンプルでした。

修行をして独立して、オーナーシェフになる。



その考えが唯一のゴールのように語られていた時代です。当時の私はただひたすらに

「オーナーシェフになれなければ負け」のような強迫観念のような概念でもありました。

 

今思えば、単に他の生き方を知らなかった、ということだったのかもしれません。

厳しい修行の中で、途中で辞めるか、続けて独立を目指すか。

多くの料理人も、当時の私からはその二択を迫られていたように見えました。

 

フランス料理への憧れと、日常との距離

私は、ホテルや街場のレストランでフランス料理を学びました。

将来はオーナーシェフになることも、ひとつの選択肢として考えていましたし、

その道を目指して、挫折しながらも「自分にはこれしかない」と思ってがんばっていました。

 

 

華やかさや文化への憧れもあり、フランス語を勉強しながら、

心の底から身に付けたい料理だと感じていました。

でも、休みの日。

家に帰ると、なぜか食べたくなるのは、玉子焼きと納豆ごはん。

フランス料理は好きだけれど、

毎日食べられるかと言われると、正直そうではない。

ごはん、玉子焼き、納豆、きんぴらが好きな自分も、確かにいました。

フォアグラ、トリュフ、キャビア、ジビエ。。確かに衝撃的な旨さで

食べたことがない人に食べさせてあげたいと思う気持ちと

でも日本人なんだよな。という冷めた現実もありました。

私の中にそこの壁が越えられなかったということです。

 

私の日常の延長線上には、フランス料理はありませんでした。

それは薄々感じていましたが、仕事になるとフレンチに没頭し、とにかく一人前になりたい一心で必死で働きました。

 

フランス料理から学んだことは、今も礎になっている

 

それでも、フランス料理は好きですし

技法や段取り、仕事に向かうときの心構え、一皿を完成させるまでの考え方やプロセス。

それらは今でも間違いなく、私の仕事の礎になっています。

 

銀座のフレンチレストランで働いていたときは

シェフに対して尊敬の念を抱き

シェフから料理以外にもプロとしてお客様に喜んでもらうための姿勢や

コックコートの着方、袖のまくり方。クシャクシャにまくらない。

タブリエ(前掛け、胸当てエプロン)の付け方。ギャンブルの話は禁止。

髭は整えるか、剃る。

 

そんな些細なことまで含めて、料理の技術以前に、一人の人間として

「プロとして仕事にどう向き合うか」を教わりました。

 

惣菜工場に行ったのは、立ち止まる時間でもあった

 

父が倒れたことをきっかけに、一時、レストランを辞めて惣菜工場で働くことになりました。

その当時は、「惣菜」というカテゴリーには興味がありませんでしたが

今となればもその頃の経験も今に活かせることが出来て

展示会で再開した当時お世話になった方と連絡も取りつながりを維持させていただけています。

 

惣菜工場で働くとレストランとのギャップがあり、小さなプライドもありましたが

正直に言えば、過酷な厳しい現場から一度距離を置けたこと、

疲弊していた心のリハビリにもなったのか、どこか救われた気持ちもありました。



またレストランに戻りたいという気持ちもまだ頭の中にあり

当時は、惣菜工場で働いている自分を過小評価してここを早く出なくてはと考えていました。

 

「そこで必要とされる人になりなさい」

レストランを辞めるとき、シェフがかけてくれた言葉があります。

「働く場所がお弁当屋さんでもいい。そこで、必要とされる人になりなさい」と。

 

料理のジャンルや肩書きよりも、仕事への向き合い方を大切にする人でした。

シェフのこの言葉は、あらゆる業界に尊敬の念を持つという考えで自分もそうなりたいと

そのとき心に刻み今も心に残っています。

 

惣菜の方が、正直むずかしい

26歳のとき惣菜工場で一年働いたあと、再びレストランの現場に戻りました。

 

買い出しついでにデパ地下へ立ち寄り、生鮮品売り場や惣菜売り場を見ながら、

旬の食材や売り場の動きを少しずつ意識するようになりました。

 

「商売の勉強もしなくちゃな」そう考え始めて、中食の世界へ舵を切りました。

やってみてわかったことは、惣菜の仕事の方が様々な制限もあり面倒だということです。

 

時間が経っても美味しくなければならない。

熱い料理は冷まさなければならない。衛生意識や菌数の問題。



外食では形式化しやすいことを、当たり前として真剣にやらなければならない。

一括表示の内容も理解し作成できるスキルも必要です。

 

お惣菜の仕事は、正直、難易度が高いと感じました。

 

惣菜と料理人が組んだら、かなりいいと思った。

 

だからこそ、思いました。惣菜と料理人が組んだら、最強だなと。

料理人が持っている味の設計、火入れの感覚、食材を見る目。そこに、惣菜の現場が求める時間経過、衛生、再現性、商売の視点が加わる。

日常の中で、ちゃんと美味しい料理が成立する。そう思っています。

 

惣菜は、自分の性格にも合っていた

惣菜という仕事は、自分の性格にも合っていると感じています。

華やかではないけれど、日常の中で、そっと役に立つ。



主役ではないけれど、食卓を下から支えるような存在。

派手さはなくても、毎日の暮らしに、少しだけ彩りを加えられる。



惣菜には、そんな魅力や役割があると思っています。

振り返ってみると、自分自身も、

そういう立ち位置を選んできたのかもしれません。

 

惣菜は通過点で終わることが多い

デパ地下惣菜に携わっていた当時、会社のコンセプトは

「料理人が作る、出来立ての惣菜」でした。

そのため、料理人が惣菜を作る会社として、多くの料理人が集まってきました。

 

その後のキャリアを見ると、そのまま残る人、外食に戻る人、同業他社に移る人が多く、

惣菜を続ける人は、決して多くありませんでした。

時を経て、私のように惣菜屋として独立している人は、正直あまり聞きません。

実際はいるのかもしれませんが少なくとも、表に見える存在ではありませんでした。

 

以前書いたブログでも触れましたが振り返ってみると、

私はずっと、他人と少し違う選択をしてきたのだと思います。

 

それは、憧れていたオーナーシェフという生き方を選ばなかった

という方が近いのかもしれません。

 

面倒だとわかっていて、やってしまった

今まで経験をしてきて惣菜は面倒なことを、当の本人が一番わかっているのに、

それでも、Hedgehog Backyardをやってしまった事です。

簡単だからでも、逃げだったからでもありません。

むしろ、面倒な方を選んできました。

 

これからも

今の時代になってから、料理人のキャリアは、ずいぶん多様化してきました。

振り返ってみると、私が迷いながら選んできた道は、当時はまだ言葉になっていなかっただけで、

いまなら「ひとつの生き方」として説明できる時代になったのかもしれません。

これからも、日常の延長線上にある料理をつくっていく。

 

この文章が、料理人の生き方のひとつとして、

誰かの参考になればと思います。

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